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ゆっくり始発

 

東方Projectの二次創作SSを作成している同人サークルのブログです。

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投稿SS

作者が思いつきで書いたSSです。
基本的にpixivに投稿していますので、そちでもご覧になれます。 更新が驚くほど滞っています
冬の日の香霖堂
【2011/12/25 東方創想話投稿SS】
 カランカランッ
 ドアにぶら下がっているベルが、誰かがこの店を訪れたことを告げる。
「店主はいるか?」
 彼女の声を聞いて、僕は読みかけの文庫本に栞を挟み、勘定台から顔を上げた。
 凛とすまして落ち着いた声は、今回の来訪者が少女ではなく、“お客”であることを告げていたからだ。魔理沙や霊夢ならともかく、彼女の来訪を無視するわけにはいかないだろう。
「いっらっしゃいませ、先生」
「もう、先生と言うのはよしてくれ」
 カシャン、と後ろ手にドアを閉めた彼女――上白沢慧音――は困ったような、けれどうれしそうな笑顔で僕を見つめた。
 彼女はスカートの模様が特徴的である青を基調としたワンピースに、マフラーと手袋をしている。頬も赤く染まっていし、帽子には白い雪がうっすらと積もっていた。
 はて、と疑問に思い窓から外を覗いてみると、いつの間にかきれいな青空から曇天に変わっていた。さらに、ハラハラと白く小さな雪が振っている。どうやら本に夢中になりすぎて外の変化に気がつかなかったようだ。
「ご希望の品は……っと、その前に温まっていくかい?」
 よっと、という掛け声とともに、僕は足元においてあった火鉢を持ち上げた。
「こんなものしか無いのだけれど……ないよりはマシだろうっと」
「すまない。恩に着る」
 そんなことは無い。気にしないでくれ。と毎回言っているのだが、彼女は律儀にも毎回感謝の言葉を口にする。さすが先生というべきか、やはり大人だというべきか。
 ゴトン、と火鉢を勘定台の前におくと、彼女は早速しゃがんで両手をかざした。
 毛糸の暖かそうな手袋をはずした彼女の手は頬以上に赤かった。どうやら、外は僕の予想以上に寒いようだ。
 炭のパチパチという音がつい先ほどまで閑古鳥が鳴いていた店内に響く。
「暖かいな」
 来店した時は厳しかった彼女の表情も、火鉢の暖かさに溶かされたのか徐々に丸みを帯びた優しいものに変わっていった。
 落ち着いてきた様子を確認すると、僕は早速仕事に取り掛かった。
 店の奥にある、普段は商品になりそうにないものを保存している棚を探す。たしか、このあたりに置いたはずなんだが……あったあった。
 火鉢の前でじっと暖をとる彼女を横目に、僕は彼女へと渡す商品を再度確認する。うん、間違いない。
「慧音先生。言われていたものを探しておきましたよ。どうぞ」
「あぁ、ありがとう。だがいいのか?これは外の世界のものだろう。こんな材質のものは見たこと無いぞ」
「別に構わないさ。外からやってきたものを売る。それがこの香霖堂なのだからね。それに、その『下敷き』というものはどうにもうまく扱えない道具だからね」
「……と、言うと?」
 彼女は下敷きを曲げたり伸ばしたりしながら、僕のほうを向いた。
「この道具の用途は『紙に文字を書くのを補助する』というものだ。使い方までは僕の能力ではわからないが、名は体を表すという言葉があるように、この名前からなんとなく想像できた」
「したじき、といったな。ということは、紙の下にでも置くのだろうか?」
「さすが先生。僕もそうだろうと推測して実験してみたんだ。だが、いざ書いてみると普通に机の上で書くのと大差ないんだよ」
「道具の用途がわかる店主でも道具を使いこなせるとは限らないのだな」
 彼女はまじめな顔で僕の話に相槌を打ってくれるが、彼女の手はバヨンバヨンと彼女は下敷きをたゆませて遊んでいる。割らなければよいのだが。
 もっとも、これは彼女に渡す商品なのだから、割れたところで僕はあまり困らないのだけれど。
「それにしても、どうしてこのようなものが欲しかったのですか?」
「ん?店主には言ってなかったか」
 彼女は不思議そうな顔をして、僕を見つめた。僕はただ、「もし見かけることがあったら取っておいてくれ」としか聞いていないのだ。
「そうか。それでは今度は私が話す番だな」
 コホン、と彼女は小さく息を整えた。
「以前、外の世界の科学にういての本。特に子ども向けの本を譲ってくれ、と言ったことがあるだろう」
「あぁ、そんなこともあったね。たしか、寺子屋の子たちに読み書き計算以外も教えてみたい、と言っていたけ」
「そう、それで店主から譲ってもらった本の中に、実際に体験できて面白そうなものがあったんだ」
 なるほど。その体験のために、この下敷きが必要なのか。
「あの本によると、これで雷と同じ現象を発生させることができるそうだ。もちろん、同じ現象というだけであって本物よりもずっと小さな現象だけれどな」
 ふむ、と顎に手をかけえ、僕は彼女が持っている下敷きを見つめる。こんなものであの雷を発生させるとこができるのか。これはちょっと惜しいものを売ってしまったのかもしれない。
 しかし、あの道具の用途は『紙に文字を書くのを補助する』で間違いない。ということは、本来の使い方以外の方法で雷を起こすのだろう。とても興味があるな。
「なあ先生。どうだろうか、私にその『雷を発生はせる方法』を教えてくれないだろうか」
「あぁ、とても興味がある」
「ん、店主は興味があるのか?」
 彼女が僕に向けた意外そうな視線は、しかしすぐに楽しそうなものへと移り変わった。
「そうかそうか。それじゃあ、今度うちの寺子屋に来てみないか?学問に興味があるのなら子ども以外も歓迎だ」
「いや、それは遠慮しておくよ」
 当初の大人らしい彼女はどこへやら。目の前には新しい遊びを見つけたような笑顔の少女がいた。
「ふふっ。まあ、理由はどうであれ、寺子屋はどんな人も妖怪も。もちろん半妖だって歓迎だ。それでは、私はこの下敷きをもらっていくな。かえって準備をしないと」
 カランカラン
 火鉢を名残惜しそうに見送り、慧音先生は店から出て行った。まったく、僕の店に来るのは、どうしてこうも幼い少女が多いのだろうかね。
 よいしょ、と火鉢を元の位置に戻して、僕は中断していた読書を再開する。
 
 あの下敷きは彼女の手に渡り、上手に使われるだろうか。
 そんなことを思いながら、僕は本のページをめくった。
それは美味しいの?
【2011/9/7そうなのか日記念SS】
「ちょっと!きゅーりょうが下がるって、……あれ?」
「給料が下がるってどういうことよ、だよ」
「あ、そっか。きゅーりょうが下がるってなによ!」
「しかたないだろ。フケーキなんだからさ」
「そーなのかー」
「フケーキか何だかしらないけれど、頑張って食べきりなさいよ」
「違う違う、乗り切りなさい、だよ」
「食べられるのかー?」
「フケーキ~♪味はそこそこだけど♪たくさん召し上がれ~♪」
「……あれ?僕の出番は?」

霧の湖。近づくと多くの妖精が集まってイタズラをされることで有名なこの場所は、賑やかな声が飛び交っていた。
だが、今日に限ってはいつもと違った。その声の主は相変わらずなのだが、ひたすらに棒読みなのだ。

「フケーキって食べ物なの?あたい食べてみたい」
「おふで作られたケーキなのかな?どう思う?」
「ん~、おふで作られてるなんて想像つかないなぁ。お味噌汁の中に入ってるのしか見たことないし」
「味噌汁味の~♪ケーキはいかが~。温かくてフワフワよ~♪」
「おいしそうなのだー」
姦しく、しかし意味の分からない方へと会話は弾んでゆく。
読んでいる人は分かっていると思うが、フケーキとはケーキではない。無論、食べ物ですらない
だが、湖に集まるこのメンバーには、そんなことを知っている者は当然おらず、更にはツッコミを入れる者すらいない。
「どこかで食べられないかな?フケーキ」
「この本には、給料ってものが下がるところにあるっぽいけれど……給料って何だろう?」
そう言うと、1冊の本を取り出した。ページが複数のコマに分けられている、いわゆるマンガというやつであった。
「ん?給料ってこれじゃないかしら」
何気なく次のページをめくると、そこには同じく“給料”という文字があった。
「なになに……給料が下がって家に入るお金も減ったじゃないの、か」
「給料が~下がるとお金が減る~♪」
「お金が減る?神社のお賽銭みたいだね」
「……そうか、それだよ。きっと神社もお金がないからフケーキがあるはずだよ」
「そーなのかー!」
「?よくわかんないけど、神社にフケーキがあるんだね?それじゃあ食べにいこうよ!サイキョーのあたいが全部食べてやるんだから」

そういうと、意気込みのつもりなのか「フケーキを食べに行くぞ!」「お~!」とかけ声をかけ、一同は手を掲げた
その中、先ほどまで読んでいた一冊の本も高く掲げられてた
日の光を浴びた表紙には、本のタイトルが大きく描かれていた
クレヨンし〇ちゃん、と
七夕なのか~
【2011/7/7そうなのか日記念SS】
「これで準備完了っと」
紐をキュッとしばり、全体のバランスを確認します。うん、問題ないですね。
「早苗ったら。笹まで準備したの?」
振り返ると霊夢さんがこちらを見ていました。
「ええ、立派なものを探してきました。宴会に来られる人は沢山いますからね」
今日は七夕です。そこで、誰が発案者か分かりませんが博麗神社で宴会をすることになりました。
「だから、宴会なんてしないわよ。どうしてみんなすぐにウチで宴会するのよ。誰がそんなことを言い出したの……って、どうせ魔理沙よね」
「はい、魔理沙さんからお誘いを頂きました」
「まったく、ここをどこだと思っているのよ。神社なのに……」
霊夢さんは口では文句を言っていますが、宴会を開くのはまんざらでもないようです。実際、今も掃除をされてますしね。
確か、以前にそのようなことを口にしたら「何言ってるのよ」とお札をとばされました。あれは痛かったです。
「さて、あとは短冊の準備ですね」
香林堂で買ってきた画用紙を縦長に切りそろえて、穴を空けて紐をくくりつけます。
赤、青や黄色の画用紙のどれから切ろうかと悩んでいると、急に手元が暗くなりました。
「あら?あ、こんにちは、ルーミアちゃん。宴会はまだですよ」
顔を上げると、そこには両手を広げてふよふよと浮いているルーミアちゃんがいました。
「これは何なの?」
笹と私を見比べていたルーミアちゃんは、笹を指差していました。
「今日は七夕ですからね。笹を準備しました」
「……タナバタ?」
あら?妖怪の間ではこのような季節の行事は馴染みがないのでしょうか。「七夕というのは天の川の向かいにいる織り姫さんと彦星さんが年に一回だけ手と手を結ぶことができる日のことです。恋人同士の二人は一年間もこの日を待ち続けたのです。それを祝うのが七夕です」
「……?」
クイッと首をひねるルーミアさん。ん~私の説明は難しかったですかね?
「簡単に言いますと、お祭りです」
「そーなのかー」
よかった。伝わったみたいです。
「それでは、短冊に願い事を書いてください。一緒に飾りましょう」
梅雨における秋
【2011/7/3 東方創想話投稿SS】
――ザー、ザー
降りしきる雨。
空から落ちる水滴のカーテンは視界を遮り、目の前に広がる景色をぼやけさせる。
天界でバケツをひっくり返したかのような土砂降りの雨の中、少女は淡い黄色の番傘を手に立っていた。
彼女がいるあぜ道から眺めるは水田。まだ背丈が伸びきっていない成長ざかりの若い稲がゆらゆらと揺れ、水面は空からの恵みを喜ぶように波紋を描く。
「……梅雨の夕立」
夏目前である梅雨。山の木々は太陽の光を受けるために枝を伸ばして葉を広げるための準備に勤しみ、地中の蝉は自分がもっとも謳歌する瞬間を心待ちにしている。
生命を爆発させる季節の目前だというのに、彼女のまとう雰囲気はどこか寂しげな季節外れのものであった。
彼女のワンピースは、上から下へと茜色からへ橙黄色へと移り行くグラデーションで染められており、その裾は楓の葉の形をしている。サラッとのびたストレートな髪は鮮やかな夕焼け色をしており、スカートの裾とおなじく楓をモチーフとした髪留めが添えられている。
華奢な彼女を表現するとすれば、それは……“秋”。賑やかな夏を過ぎ、冬という静寂が訪れるのを知らせる季節。
そんな彼女は雨粒をつかもうとするかのように傘の外へと手を伸ばす。雨の具合を確認するかのように、または何かを渡すかのように。
しかし、空からの恵みはただ彼女の手の平を濡らすだけであり、彼女の袖口の色を変えていく。
灰色のフィルターがかかった景色の中、その様子に納得したように小さく頷くと、彼女は視線を横にずらす。
そこには、雨に濡れるのを一向に気にしないかのように、一人の少女が水田の中で踊っていた。
クルクルと、シトシトと。飛んだり跳ねたりするようなものではないが、そのゆっくりとした動きの中に確かな力と思いが詰め込まれている。
しかし、そんな彼女もまた季節外れであった。
薄墨で染めたように淡い黒色のスカートに、くすんだ黄色の上着。その上に橙色を基調とした袖のないエプロンドレスのような服を着ていた。頭の帽子には葡萄のワンポイントが飾られている。
少しだけふっくらとした彼女からはあまり寂しさを感じ取ることはできないが、やはり彼女も“秋”であった。
「この雨ならば……今年も心配ないでしょうね」
傘をさした少女は、空を仰いで少しだけ表情を崩す。雨がなかなか降らなくて心配していたが、どうやら目の前の子たちは元気に育ってくれそうだ。
その時、稲穂の間で踊っていた少女の動きが止まった。ただ前を向き、組み合わせた両手を顔の前に持ち上げている。
「そろそろ終了ね。さて、愛しの妹のためにタオルでも準備しておこうかしら」
やることはすべて終えたのだろうか。水田で踊っていた少女は振り返って傘を差している姉のほうへと走ってきた。
「ふ~、冷たかった」
「お疲れ様、穣子。はい、タオル」
受け取ったタオルで彼女は――秋穣子は――ワシャワシャと髪を乱暴に拭く。髪が痛むからやめなさいと毎回言われているのだけれど、乾くまで悠長に待ってなんていられない。髪が痛んだらその時に考えればよい。何が髪にようのかしらね。椿は……冬だっけ。
「これで今年は最後ね。あとはこの子たちのがんばり次第。いずれは立派に頭をたらしてくれるはずだわ」
タオルで体の水分を拭っている妹に雨が当たらないように傘を調整し、姉は――秋静葉は――稲を眺める。
水の塊が振ってくるかのように錯覚するほどの雨ではあっても、腰を折ることをせず、ただまっすぐ伸びようとする稲。これからの太陽の季節を謳歌し、実りをつけてくれるはずである。
「ふぅ。そいえば、姉さんはもういいの?山の紅葉や銀杏でまだ見て回っていない場所も多いでしょう」
「あぁ、残っている子はもうちょっとしたら見に行くわ。あの子たちはのんびりしているから、今行くと『早すぎる』ってすねちゃうのよ」
「姉さんも大変だね」
「穣子ほどじゃないわ。ほら、ちゃんと髪を梳かさないと痛むわよ。もう」
腰につけていたポシェットを開け櫛を取り出す。その櫛はどこにでもあるような変哲にないものだった。
「もう、自分でするってば」
櫛を奪い取ろうとする穣子の手をパシッとはじき、静葉はグイッっと顔を近づける。
「ダーメ。いっつもそう言うけれど、ちゃんと梳かした試しがないじゃない。私が梳かしてあげるから」
そう言うと、静葉は穣子の両肩をつかみ、背中を向けさせる。
「穣子は自覚がないのよ。また髪の毛をグシャグシャにして。いくら神様だといっても身だしなみには気をつけることね。それは神様だとか以前の問題で」
「“女の子としての問題”でしょ。ちゃんと家に帰ったら手入れをしているじゃない」
「それじゃあ遅いの。いつでも、どこでも、手早く手入れする。これが大切なのよ。ほら、動かないで」
髪に櫛を入れ、スー、スッ、っと髪を梳かす。その音を聞いて、穣子の頬が緩んだ。
いつも口うるさく、たまにうっとおしく感じるが、とてもやさしい姉。それは自身を可愛がっており、また心配しているからだということを穣子はとても嬉しく感じていた。
特に、こうやって髪を梳かしてもらうのは一番のお気に入りだ。どれくらいかといえば、雨に降られた後にわざと髪の毛をほったらかしにするくらいに。
「よし、これで大丈夫ね」
満足げな声で静葉は終了を告げた。静葉がポシェットから取り出した鏡を覗き込むと、そこには雨に打たれる前の、いや、打たれる前よりもきれいになった自分がいた。
「えへへ、ありがとね。姉さん」
「どういたしまして。それじゃあ帰ろうか。暖かい紅茶を入れてあげるわ」
「は~い。そうそう、姉さんが留守だった間に焼いたクッキーがあるのだけれど、食べてくれない?」
「あらそれは楽しみね。私も張り切って紅茶を入れないとね」
一つの傘に入っている姉妹は、お互いに笑顔を浮かべながら山へと帰っていく。


――■――


季節は秋。田の稲穂は金色に光り輝く頭を収穫され、米俵につめられる。
今年も豊作。雨がなかなか降らなくて心配ではあったが、それは杞憂で終わったようだ。
「今年もありがとうございます」
「いえいえ、とんでもないですよ。そこまで感謝しないでください」
収穫祭に呼ばれた穣子は多くの里の人から感謝の言葉をかけられる。穣子としては当然のことをやったまでであり、半分くらいは自分のためである。だから、これほど感謝されるとどう対応していいのかわからない。
「ですから、私は自分がやりたいから豊作にしただけで……」
「いえいえ、そんなご謙遜を。我々がこの冬を乗り越えられるのも、全ては穣子様のおかげです」
何度も頭を下げる村長に、穣子は頬を掻いてしまう。本当に、どう対応したらいいのだろうか。
その時、ふと横を見ると奉納品の中にきれいな櫛が置かれているのが見えた。
手にとってみると、その櫛には細かな細工が施されており、目を張るものがあった。里の人がどれだけこの豊作に感謝しているかが伺える。
「さすが穣子様、お目が高い。それは……」
なにやら村長が話かけてきたが、その内容がまったく頭に入らない。それほど、穣子はその櫛に見とれていた。
銀杏のような淡い黄色を下地ししたもので、茜色の紅葉がアクセントを加えている。
しかし、それ以上に気に入ったのは、紅葉の葉のすぐ横に葡萄の房が描かれていることだった。
「これ……頂いてもいいかしら?」
「勿論です。どうぞどうぞ」
穣子は笑顔で懐に櫛をしまう。

次の梅雨が……いや、次に髪を梳かしてもらうのが楽しみでしょうがない、とでも言うように。
知識の魔女と幼い吸血鬼
【2011/6/14むきゅ~の日記念SSの続き】
「好奇心は猫をも殺すとはいったが、魔女も殺すのね」
レミリアは嬉しそうに彼女を見つめた。
バサッ
月明かりに照らされてもなお、レミリアの翼は闇を切り抜いたかのように暗い。そのことは、やはり彼女が夜の王であることを示している。
そんなレミリアは不適な笑みを浮かべ、ただ翼をはためかせて期待していた。魔女の頭の良さとその発言を。
「……好奇心は猫だけでなく、吸血鬼も殺すのではないのかしら」
売り言葉に買い言葉。言葉尻だけ聞けば、彼女は非常に安っぽいことしか言えなかった。けれど、相手は自尊心が青天井な吸血鬼である。そんな安っぽい煽り文句では、見下されたと思われて飛びかかられてもなんらおかしくない。
だが。
「ハァッハッハ。さすがだな。それでこそ魔女と呼ばれるに相応しい。今宵、会えたことに感謝しよう」
レミリアは盛大に笑っていた。それは彼女が安っぽい言葉しか返さなかったからではない。勿論、彼女の態度に笑ったわけでもない。
律儀にも、わざわざ安っぽい言葉を選んで返してきたその姿勢に笑ってしまったのだ。
そんな様子を見て、知識の魔女は口角を上げる。やはり相手は見た目通りの妖怪ではないことを確認して。
「さて、そろそろいいかしら?レミリア・スカーレット。素晴らしい夜は十分楽しんだかしら?」
「フッフ。そんな魔女こそ、終わりない魔法の研究はもういいのよね?」
全く異なる二人の問いかけ。だが、返される言葉は同じだった。
「「まだまだ足りない。‘貴女’を殺してから続きを楽しむとするわ」」
二人の言葉は戦闘への呼び水となり、辺りの静寂を切り裂いた。
知識の魔女と幼い吸血鬼
【2011/6/9むきゅ~の日記念SS】
空には満月。
雲一つない満天の星空の下、芝が生えているだけの丘に少女はいた。
彼女は眠たそうな瞳で空を、月を見上げていた。
月見であろうか。いや、こんな時間に、妖怪が跋扈するこの場所で、欠けることない月を眺めるなんて“普通の人間ならば”しようとなんて思うはずがない。
そう、彼女は月見に来た訳ではないし、普通の人間でもない。そんなことは彼女の瞳が語っていた。その知的な眼差しからは、見た目からは想像が出来ないほどの狂気と焦り、そして子どものような好奇心が漏れている。
「…………」
風になびく紫色の髪はあまり艶がなく、月光に照らされた肌は陶器のように真っ白であり、彼女があまり日の光を浴びていないことがうかがえる。彼女が見た目通りの存在でないことは、そんな様子からも察することができる。
「……そろそろね」
一歩、二歩と足を踏み出して、三歩目で地面を強く蹴りつける。
フワッと浮いた体は重力に引かれることなく上昇を続ける。その時。
バシッ
闇の向こうより飛んできた一羽の蝙蝠を彼女は叩き落とした。こんな夜に相応しい闇色の羽を持つ、獣にしてはありえない知的な瞳の蝙蝠を。
蝙蝠はきりもみしながら落下していき、闇に溶けてしまった。
その様子を確認した彼女は、一つ頷くと蝙蝠がやってきた方向を睨む。
そこにはただ月に照らされた闇があるだけ……のはずだった。
「あら、ずいぶんな挨拶ね」
いつからだろうか。そこには闇を集めたような翼をもった幼い少女がいた。幼い少女は紫色の少女を見つめていたが、それはまるで、自分の玩具に成りうるかどうか値踏みしているようだった。
「こんな夜に出歩いては危ないわよお嬢ちゃん。恐い恐い妖怪に食べられてしまうわ」
その声は見た目相応のものであったが、あまりにも落ち着いた口調は背中の翼と同様に、彼女自身が妖怪であることを告げている。
「やっと見つけたわ。レミリア・スカーレット」
しかし、そんな忠告にーー当たり前といえばその通りだがーー紫色の彼女は従うことはなく、目の前の少女をしっかりと捕らえていた。
「私の名前を知っているなんて、私も有名になったものだな」
レミリアと呼ばれた少女の顔はケラケラと笑い出した。しかしその瞳は冷酷に紫色の彼女を見下ろしている。
「大切なことだからもう一度言うわ。こんな夜に出歩いては危ないわよお嬢ちゃん。恐い恐い妖怪に食べられるわ」
そんなレミリアの挑発を受けても、彼女の顔は微動だにしなかった。
「ふぅ。分からないようならハッキリと言ってあげるわ。今すぐに目の前から立ち去りなさい。今日は気分がいいから見逃してあげる」
「…………」
レミリアの再三の忠告に対し、彼女は小声で何か呟く。
その呟きが夜の静寂に完全に飲み込まれる直前、彼女の目の前に光が生じた。その中には、虹色に輝く石のようなものがあった。
レミリアは目を開く。彼女が取り出したものが何であるのかを知っているからだ。
「まがい物ではない本物を見たのは初めてね」
レミリアは彼女を予想よりもはるかに見くびっていたことに気がついた。
彼女は手を開く。レミリアに見せたものは知識の結晶であった。
「貴女に対する私の評価はこれで十分かしら」
彼女はレミリアが自身を見くびっていたことに気がついていた。
「クックック、賢者の石とは凄いわね。では改めて」
コホン、と一つ咳払いをすると、レミリアは目の前の少女を真っ直ぐに見つめた。
「こんばんは、知識の魔女。このような夜に何の用事かしら」
「魔女が吸血鬼に望むことなんて一つしかない。私の実験材料になってもらうわ」
「好奇心は猫をも殺す、とは言ったが、魔女も殺すのね」
レミリアは嬉しそうに彼女を見つめた。
ルーミアのいる風景
【2011/6/7そう七日記念SS】
「…………(じゅる)」
「分かってはいると思いますが、食べちゃダメですよ」
「わ、わかってるよ!」
紅魔館の一室、部屋一面を本棚が埋め尽くす図書館で、ルーミアは慌てて唇のよだれを拭いた。
彼女が持っている本には、色鮮やかな料理の写真が散りばめられている。
「クスッ。本当にルーミアさんは食いしん坊さんですね」
手に持った本を棚にしまいつつ、小悪魔は振り返った。
「もう少ししたら咲夜さんが紅茶とクッキーを持ってきてくださるので、それまでは我慢してください」
「そ~なのか~」
クスッ。素直なルーミアに小悪魔は思わず笑みがこぼれてしまう。
コンコン
その時、ドアをノックする音が本棚に響いた。
「どうぞ。入ってきてください、咲夜さん」
小悪魔の返事にルーミアは顔を上げる。しかし、それもしょうがないことである。腹が減っている以上に、彼女はルーミアなのである。
「失礼します。あら?パチュリー様は?」
あたりを見回し首を捻る咲夜。いつもならば出入り口そばの円卓に座っているのだが……今日はどこにも見当たらない。
「パチュリー様は先ほど、用事があると言われてどこかへ出ていかれました」
そう、と頷くと、ちょうどルーミアと視線が重なった。彼女の瞳はただひたすらに一つのことを語っている。
クッキー!と。
「はいはい、ちょっと待ってください」
トレイに乗せていた三人分の紅茶とお茶菓子を円卓の上に置く。一つだけクッキーが山盛りに乗っているのは、咲夜なりのサービスだろう。
「はい、どうぞ。今回はお客様の好みに合わせて、質より量を重視して作りました」
「そ~なのか~」
「貴女はこのお皿……っと、言うまでもないわね」
ルーミアは咲夜の説明を聞いているのかいないのか、既に席についてクッキーを手に取っていた。
「いつもはフワフワしているのに、こんな時は素早いわねぇ」
「ふぉ~ふぁふぉふぁ~」
そのあまりにわかりやすい反応は微笑ましく、図書館にゆったりと時間が流れる。
「ふふふ。小悪魔はレモンティーだったわね」
レモンスライスが乗せられた皿がティーカップにの横に置かれる。
「それでは、私はこれで」
「まって下さい咲夜さん」
紅茶を運び終え図書館を後にしようかとした時、咲夜は呼び止められて振り返る。トレイには一組の紅茶が置かれていた。
「咲夜さんも紅茶を飲まれてはどうですか?ちょうど一人分余ってますし」
「……いえ、これはパチュリー様の分ですので。従者である私が飲む訳には」
「大丈夫ですよ。誰も気にしませんし」
「ですけれど」
小悪魔の誘いに咲夜は戸惑ってしまう。
「ここには司書である私とルーミアさんしかいません。咲夜さんと一緒にクッキーを食べたいですよね~」
コクコク
「ほら、ルーミアさんも頷いてますし」
笑顔の小悪魔とクッキーに夢中なルーミアに、なんだか甘えてもいいきがしてきた。
「そこまで言ってくださるなら」
手近にあった椅子を引き、咲夜は図書館でのお茶会に参加することにした。


「おかわり~」
「はいはい、持ってきますのでちょっと待ってくださいね」
「ルーミアさんったら、クッキーをこぼしすぎですよ。ほらほら」
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